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2010年01月12日

就職氷河期は嘘っぱちと言い切ってしまうのも嘘っぱちでは?

近くTVドラマ化される「エンゼルバンク」の中の一節。

「今、マスコミが騒いでいる「就職氷河期」はすべて嘘っぱち!」

という話なのだが、視点の転換という意味では面白いと思うし、こういう考え方は必要だけれど、「全て嘘っぱち」と言い切ってしまっている点が、

まぁ、漫画作品としてはエンターテイメントであるという点が優先されるし、この発言をする登場人物の桜木も、この作品世界の中で強引な言い切りをする役割なので、あまり細かい事を指摘するのも野暮ってもんだが、

これ、数字を使ってマスコミが認識を操作しているという話をしながら、別の認識操作で上書きするという事をやってるだけの話。

まず、



これは日本の自営業者の割合の推移を示し、

1955年 56.5%

1970年 35.1%

2008年 13.5%
減少傾向にある事を指摘。その後、日本の大学の数の推移が

1985年 460

2009年 773

と増加しており、

その結果、4年制大学を卒業して正社員就職をした人の数が増加しているとしており
(この因果関係は順番が逆ではないか?)

1990年 324164人

2008年 388227人



大学を卒業した人の数がやはり増加している事、

1990年 400103人

2005年 551016人。


これらのデータを提示した上で、



1990年と比べて2008年の方が「4大卒」で正社員になった数は増えているが、

それ以上に大学を卒業した数の増加が大きいので、結果として就職率が下がっているだけ

として、就職氷河期は嘘っぱちだと断じるのである。

そして、これらは「サラリーマン」という一つの山をみんなが目指した事で起きたのだとしている。

つまり、サラリーマン以外の道に活路を見いだすことが出来るはずだと、言いたいっぽい。(そのあたりは次の週で語られるのだろう)

だが、これには重大な「騙し」が入っている。

サラリーマンに殺到するからダメだということなら、つまりこの論法だと一番最初に提示された「自営業」の比率を上げて行く事が解決につながるという事になる。

だが、自営業を始めるという事が解決策なんだとしたら、それは現実的では無い。

特に日本ではベンチャーが育たないとされているが、その最も大きな要因は、一度の失敗で根こそぎ個人財産まで剥奪され、次のチャンスを掴む体力が奪われるという点にある。

事業を興すに銀行などからの借入が必要になるケースは多いが、奇妙な事に、有限責任であるはずの企業形態をとっていても、銀行は社長の個人保証を求めてくる場合がほとんどだ。

せっかく株式会社などにしておいても、有限責任というメリットは使う事が出来ず、失敗した場合に個人財産まで召し上げられる条件でないと融資が通らない。

商法の基本を蔑ろにする商習慣がまかり通っているが故に、ある程度の規模のある企業がより有利になり、業界再編や自由競争が阻害される体質になっている。

このような状況が、バブルで景気の良い時代になっても続けられていたのだから、誰もがサラリーマンを目指すのは当然の事だ。

勝ち易きに勝つという意味で言えば、東大行って有名企業のサラリーマンになる事が最も正しい事なのだ。

で、それは「東大」を題材にした以前の作品の方がハッキリと言っていたし、軸もぶれていなかったように思えるのだが、今回はどういうところに着地点をもってこんな話になってるんだろう?と不思議に思う。


また、もしも自営業として開業する事にそれほどの障害も無かった場合でも、やはり就職率がそれで向上する事は無いだろう。

というのも、多くの分野で大企業がマーケットを握っている状況であり、ニッチのマーケットをつかんだ中小企業の成功例があっても、それの成功が持続しているという例は少ない。

筋書きがゆがめられている点は明らかで、

自営業が減っていった原因を、後継者が育たなかったからと結論づけている事にある。

現実には、後を継がせるほど儲からないから自営業が廃れたのであって、それはマーケットに自営業の居場所がなくなっていった事と、マーケットそのものが縮小していったという事が主因であろう。

つまり、跡継ぎが居ないから廃れたのではなく、廃れたから後を継がなかったのだ。

これは産業構造の変化というだけの事であって、それに対応すれば、非効率でニーズも低くなった自営業は廃業する方が正しい。

これは、掲げられたデータの年度を見ても分かる。

自営業の割合の推移に関して、
1955年 56.5%

1970年 35.1%

2008年 13.5%
となっているが、この年度を見ていると、それぞれの年代で大きく産業構造が変化している事が分かる。

数字を色々並べられると最もらしく見えてしまうが、今回のエンゼルバンクではこうした認知の歪曲が行われているように感じられてならない。

そもそも、各データを関連付けた話にしているにも関わらず、それぞれのデータの年度は一致していないので関連性を語るには少々無理があるように思う。

最後の「分母を見る人間になれ」というメッセージに従うなら、こういう事を考えるよなぁという事で、野暮と知りつつここまで書いてきたわけでけど、

他にも突っ込める角度は沢山あって、大学の数の増加率に比べて大学卒業者数の増加率が低いことに触れていない点とか、

つまりは「分母を読む」人だったら、今回のエンゼルバンクには納得しないだろうという事。

そこまで計算に入れて今回の話を組み立てているんだろうか?

来週のお話を見てから判断する事にしたいが、この調子で進めて行くのだったら、マンガだから許されるって事にしちゃうのかな?って事になってしまうなぁ。

ちょっと変わった視点を仕入れる程度なら良いかも知れないが。真に受けてしまうと大怪我しそうな話が満載なので、エンゼルバンクはエンタメとして楽しむ程度にしておいた方がよさそうだ。(情報販売とか成功セミナーと同じね)

受験術なんかは箱庭なので、要素が少なくてセオリー通りに運ぶ事が多いんだが、

リアルなビジネスでは不確定要素が増え、しかも時間を経るに従って様々な変化が起きるものだから、東大合格!と同じような明快さで切っていくことは出来ない。

でも、作品としてはズバズバ切って見せなくては成立しないんで、そのあたり悩ましいところなんでしょうね。


最後に、

「会社に守ってもらわないと生活出来ないと考えなければ、就職氷河期は無い」

ってな一節があるんだが、

それを言っちゃおしまいでしょう。

そういうのは、世界でもトップレベルの有能な人たちだけに当てはまる話であって、タイアップしている勝間さんのように、会社に寝泊まりしてでも仕事をして、しかも結果を残してきたってタイプの人向けの話。

普通の人は、そこまでしなくても充実感なんてあまりなくても、普通に幸せなら満足なんだから。

みんながトップエリート目指して全力疾走するような世界しか見えてこないのが、このエンゼルバンクって作品に感じる歪さなんだよなぁ。
posted by 本気らいふ at 19:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 評論家の体で | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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